近年の高度情報化社会の到来により、光通信に用いる光デバイス・材料開発の為の近赤外領域波長可変短パルス光源の必要性が増すようになった。光パラメトリック過程は上図に示すように、角振動数ωpの強い光と角振動数ωsの弱い光が同時に二次の光非線形性を持つ物質に入射した時に、ωp = ωs + ωi なるエネルギー条件を満たす三つの光(ポンプ光、シグナル光、アイドラー光)が、ωpとωsとの差周波混合によってωiの光が発生し、今度はωpとωiとの差周波混合によってωsの光が発生するといった具合いに相互作用しあってポンプ光のエネルギーがシグナル光とアイドラー光に分配されることにより、ωsとωiの振動数を持つ光が増幅を受ける作用である。特にポンプ光強度が十分高く非常に大きい利得が得られるときは、シグナル光を外部から供給しないで量子雑音成分からの増幅でも十分な強度のシグナル光及びアイドラー光を得る事ができ、波長が固定されたポンプ光から上記の条件を満たす波長のシグナル光とアイドラー光を発生させる事が出来る。このようにして光パラメトリック過程における波長変換機能、増幅作用、パルス幅ナローイング効果を利用することで、広帯域波長可変短パルス光源を得る事が可能となる。しかしながらその諸特性や伝搬過程については十分には解明されていなかった。本研究では、色素レーザーからの短パルス光を増幅して得られる波長0.6ミクロン、パルス幅1 psの高出力光パルスをポンプ光に用いて、KTP結晶における誘導パラメトリック発光を引き起こすことで、波長0.9ミクロンから1.6ミクロンに及ぶパルスエネルギー1マイクロジュール、パルス幅300 fs前後の近赤外領域波長可変フェムト秒パルス光の発生に成功し、誘導パラメトリック発光の波長同調特性、スペクトル幅特性、増幅特性、空間モード特性、パルス幅のナローイング効果についても明らかにした。これらの研究により、短パルス光をポンプとする誘導パラメトリック発光過程を広帯域波長可変フェムト秒パルス光源として利用していく上での特徴及び問題点とその克服法について明らかにした。